【医療分野におけるAR/MR/VR/メタバース】導入メリットや活用事例を紹介！

医療技術の進歩は、私たちの健康と生活の質を向上させる重要な役割を果たしています。

特に、AR（拡張現実）、MR（複合現実）、VR（仮想現実）のような最先端技術は、医療分野において革新的な変化をもたらしています。

この記事では、これらの技術が医療現場でどのように活用されているか、その基礎知識から具体的な事例、導入時のポイントまでを詳細に解説します。

AR/MR/VRの基礎知識

まず、AR/MR/VRについて簡単に解説します。

技術	特徴	医療現場での活用シーン
AR	実世界にデジタル情報を重ね合わせる	体の3Dマッピング、手術計画、患部の正確な特定
MR	実世界と仮想世界を融合し、相互作用する	手術支援、ロボット操作、病状の可視化
VR	完全な仮想環境を提供し、ユーザーが没入する	精神保健治療、疼痛管理、医療トレーニング、患者教育

AR（拡張現実）とは

ARは、現実の環境に仮想の情報や画像を重ね合わせる技術です。

医療現場では、特に3D体マッピングや手術計画の策定に活用されています。

例えば、ARデバイスを使って患者の体にポイントすると、内臓や骨格などの3D画像が表示され、手術の際の正確な位置決めが可能になります。

また、患部や腫瘍などを正確に特定することで、より効果的な治療計画を立てることができます。

※関連記事：ARとは？定義・技術の仕組み・VR/MRとの違い・ビジネス事例などを解説

MR（複合現実）とは

MRは、実世界と仮想世界の要素を組み合わせ、ユーザーが実際に相互作用できる環境を作り出します。

医療分野では、手術支援やロボット操作に使われることが多いです。

MR技術により、医師は仮想現実上での手術のシミュレーションを行い、実際の手術に臨む前に病状や手術手順を詳細に理解することが可能です。

また、MRを用いたロボット操作は、より精密な手術を可能にします。

VR（仮想現実）とは

VRは、ユーザーが完全に仮想環境に没入する体験を提供します。

医療分野では、特に精神保健治療や疼痛管理に有効です。

VRを利用することで、患者は安全な環境で恐怖や不安を克服するトレーニングができます。

また、疼痛管理においては、VRが提供する没入型のゲームやリラックス環境により、患者の注意をそらし痛みを緩和します。

さらに、医療トレーニングや患者教育にもVRが活用されています。

※関連記事：VRとは何か？仮想現実の仕組みと活用事例を徹底解説

※関連記事：業界別・VR研修/訓練の最新事例｜導入方法や費用・メリットを解説

医療業界が抱える課題をAR/MR/VRで解決可能

ここからは、医療業界が抱える課題と、それをAR/MR/VRがどのように解決するのかを解説します。

1. MR遠隔支援で人手不足を解消できる

医療業界が直面している問題の一つに「2024年問題」というのがあります。

2024年問題とは、「これまで上限設定がなかった勤務医の労働時間について、上限が設定される」という問題です。

勤務医の過剰労働を防ぐことが目的ですが、それと同時に人手不足を深刻化させることにもなります。

人手不足は、医療サービスの質の低下に直結し、患者の待ち時間の増加や医療の効率性の低下を招きます。

ここで、AR/MR/VRの出番です。特に遠隔地での医療提供において、MRを活用した遠隔診断や手術支援が可能になります。

例えば、遠隔地にいる専門医がMRを通じて現地の医師を指導し、高度な医療を提供することができるようになります。

専門医が不足している地域や、患者が病院に行くことが困難な場合には、この技術が大きな助けとなります。

2. ARで視覚的に説明することで、患者と医師のコミュニケーションが向上する

診断を受けた際、医学的な専門用語を使われて理解できなかった、といった経験は少なくないと思います。

医者と患者間のコミュニケーション不足は、診断の誤りや治療方針の不一致を引き起こす原因の一つです。

AR/MR/VR技術を活用することで、医療情報を視覚的に説明し、患者が自身の病状や治療方法についてより深く理解することができます。

例えば、ARを用いて患者の体内をシミュレートし、どのように病気が進行しているかを見せることで、患者自身が治療の必要性を実感しやすくなります。

このようにして、医療従事者と患者の間における信頼関係の構築と、より良い治療へと繋がるでしょう。

3. 高齢者向けのVRサービスで医療・介護需要に対応できる

医療業界が直面している問題の一つに「2025年問題」というのがあります。

2025年問題は、「団塊の世代が高齢化することにより、医療・介護の需要が急増する」という問題です。

高齢者の増加は、病院や介護施設への負担を増大させ、医療従事者の不足や施設の運営圧力を高めることにつながります。

AR/MR/VRを利用したリハビリテーションや健康管理プログラムの提供は、高齢者が自宅で効果的に健康管理を行えるよう支援します。

これにより、病院への来院頻度の削減や医療従事者の負担軽減が見込まれます。

また、高齢者自身が楽しみながら健康維持ができるため、生活の質の向上にも繋がります。

医療分野でのAR・MR・VR活用事例9選

ここからは、医療現場でのAR・MR・VR活用事例を9つご紹介します。

ARを活用した事例

1.臓器のAR表示アプリ「Holo Eyes AR」

この医療用iOS向けARアプリは、人体の様子をiPadを利用して映し出すことができます。

ARKitを使用して空間に固定された人体の臓器を、iPadを通して細部まで確認可能です。

CTスキャンしたデータを利用して、体内のデータを閲覧できるため、患者と医師間のコミュニケーションが向上し、治療計画の立案に役立ちます​​。

2.Kapanu　歯科治療向けARソフトウェア

スイスに拠点を置くKapanuは、歯科治療向けのARソフトウェアを開発しています。

このソフトウェアは、治療前の患者の口腔内をスキャンし、その映像データに治療後装着する予定の3Dモデルの歯をARで表示します。

患者は治療後の歯の状態を正確に把握し、意思決定を行うことができます​​。

※3Dスキャンまとめ：スマホやタブレットの3Dスキャンアプリを解説｜iPad/iPhone/Androidや産業専用3Dスキャナーを幅広く紹介

3.Faca　脳外科手術向けサービス「GLOW800 拡張現実蛍光システム」

Faca社が開発したこの蛍光システムは、立体感のある血管を映し出すことが可能です。

特に脳血管手術において、手術中の血流状態や血管の順行性、障害の有無などを確認できるため、手術のベネフィットが非常に多いです​​。

MRを活用した事例

4.Forgers 　遠隔支援サービス「Project the Hands」

株式会社Forgersは、NTT QONOQが提供するMixed Reality（MR）技術を使用した医療向け遠隔支援サービス「Project the Hands」を開発しました。

このプロジェクトは医師不足の解消を目指し、従来の術者教育での課題である研修期間の長さ、人体への物理的制約、大型装置の導入コストなどを解決することを目的としています。

MR技術を活用することで、物理的な制約を超えて熟練技師の手の動きを示すことが可能になります。

これにより、術野の中で実際の手の動きを用いて正しい動かし方を示すことができるようになり、物理的な場所の制約に囚われずにどこでも利用可能です。

指導医と術者の両者はMRデバイスを装着し、3Dのバーチャル情報として表示される手や道具を用いて、手術の訓練や指導を行います。

さらに、手術後は指導医と術者の手の関節の動きが動作データとして記録され、技術の保存や伝承に活用可能です。​​

Forgers「Project the Hands」の詳細はこちら

Forgers　Webサイト

5.メディカロイド　手術支援ロボット「hinotori」

川崎重工業とシスメックスの合弁会社であるメディカロイドが開発した「hinotori」は、MRを活用した国産の手術支援ロボットです。

4本のロボットアーム、内視鏡カメラ、手術器具を搭載し、医師は3D画像を見ながら遠隔操作を行います。

手術の出血量の減少や感染症リスク低減など患者側のメリットと、直観的操作や手術部位の拡大視認など医師側のメリットがあります​​。

メディカロイドの製品情報はこちら

6.モリタ　歯科治療シミュレーション

歯科医療機器メーカーのモリタは、MRを活用した治療システムを開発しています。

このシステムは、実際の歯科顎模型を用いながら直接治療シミュレーションを行うことが可能で、施術者はヘッドマウントディスプレイ（HMD）でCT画像やカルテ情報を確認し、空間的ナビゲーションやリスク管理を行います。

高度な技術融合が特徴で、ジェスチャーコントロールにも対応しています。

このプロジェクトは歯科医師の監修のもと、実用化に向けて研究開発を進めており、初めは歯科教育用のシミュレーションシステムとして技術開発が行われています。

モリタ　歯科治療シミュレーションの詳細はこちら

VRを活用した事例

7.イマクリエイト「VR注射シミュレーター」

イマクリエイト株式会社は、一般社団法人EpiNurseと連携し、高知県室戸市で実施されたワクチン接種研修に「VR注射シミュレーター」を提供しました。

このVRコンテンツは、注射に慣れていない医療関係者でも筋肉注射の研修を効率的に行うことができます。

研修者はVRヘッドセットを通して映像を見ながら、実際の注射の手技を習得します。

特に僻地や多人数の集まることが難しい状況でも、ワクチン接種のトレーニングを行うことができるのが特徴です​​。

イマクリエイト「VR注射シミュレーター」の詳細はこちら

8.デューク大学　VRを用いた歩行訓練プログラム

デューク大学の研究では、脊髄損傷により長年麻痺していた8人の患者が、脳機械インターフェースを含むVRシステムを用いた訓練により、下肢の部分的な感覚と筋肉の制御を回復しました。

このプログラムでは、患者が自分の脳活動を使用して脚の完全な制御をシミュレートしました。

訓練の結果、複数の患者は訓練後7ヶ月で変化を見せ、1年後には完全麻痺から部分麻痺に回復した例もあります​​​​​​​​​​。

9.スタンフォード大学「The Stanford Virtual Heart」

スタンフォード大学のChildren’s Heart Centerは、Oculus RiftヘッドセットとTouch VRコントローラーを使用して、詳細な3D心臓モデルを表示する「The Stanford Virtual Heart」を開発しました。

このVRプログラムでは、ユーザーが心臓の外側だけでなく内部も観察でき、血流も含めた心臓の構造を理解することができます。

主な対象は医学生と患者で、特に先天性心疾患の影響を学ぶことができます。

このVRツールにより、医師は患者や家族に先天性心疾患の影響をより詳細に説明することができます​​​​。

スタンフォード大学　「The Stanford Virtual Heart」の詳細はこちら（英語の記事です）

AR/MR/VRを医療分野で導入する際の4つのポイント

ここからは、AR/MR/VRを医療分野で導入する際の4つのポイントをご紹介します。

1.目的や目標を明確にする

医療業界でAR/MR/VR技術を導入する際、まず大切なのは「なぜ導入するのか」、そして「どのような成果を期待しているのか」という目的や目標を明確にすることです。

例えば、手術のシミュレーションを行うためにVRを使いたいのか、それとも遠隔診療を充実させるためにAR技術を活用したいのか、目的によって選ぶべき技術は変わってきます。

この段階で目的や目標がぼんやりしていると、導入後に「思っていたのと違った」となりかねません。

目的や目標を明確にすることで、導入する技術の選定はもちろん、導入後の評価基準も設定しやすくなります。

2.ニーズに合った最適な技術を選ぶ

医療業界にはさまざまなニーズがあります。たとえば、患者さんの症状をより詳しく説明するためにMR技術を使うのか、医学生の教育にVRを活用するのかによって、求められる技術仕様は異なります。

技術選定の際には、ただ最新の技術を導入するのではなく、実際の現場でのニーズに合わせた選択が求められます。

また、使用する人の技術的な背景も考慮し、操作が複雑すぎると現場での導入が難しくなることもあります。

最適な技術を選ぶためには、現場の声を聞き、試用してみるなど、実際に使用する環境を考慮した選定が重要です。

3.情報セキュリティを強化する

医療業界でのAR/MR/VR技術の導入においては、情報セキュリティの確保が非常に重要です。

患者さんの個人情報や病歴など、扱う情報が非常にデリケートであり、情報漏洩によるリスクは計り知れません。

そのため、技術導入の際には、データの暗号化やアクセス制御など、セキュリティ対策を徹底する必要があります。

また、新たな技術を導入することで生まれるセキュリティリスクについても事前に評価し、対策を講じることが求められます。

4.従業員への研修やサポート体制を整備する

最後に、技術を導入した後も重要なのが、従業員への研修やサポート体制の整備です。

どんなに優れた技術でも、使いこなせる人がいなければその価値は半減してしまいます。特に、医療現場は忙しく、新しい技術に対する抵抗感を持つ人もいるかもしれません。

そういった場合でも、スムーズに技術を導入し、活用してもらうためには、分かりやすい研修や随時のサポートが不可欠です。

また、導入後に現れる問題点や改善点を収集し、改善につなげる体制も重要です。

おすすめAR/MR/VR開発会社3選

ここからは、おすすめのAR/MR/VR開発会社を3社ご紹介します。

1.株式会社Forgers

会社概要

株式会社Forgersは家具・小売業界、製造業界、通信業界など幅広い分野において、VR/ARアプリケーションやメタバースの開発を支援しています。

オンラインショップへの3D/AR実装支援、インタラクティブなデジタルカタログ開発、メタバースショッピングアプリ開発、3D/VRのリアルタイムレンダリングシステム開発など、多岐にわたるサービスを提供しています​​。

開発実績

Forgersは、NTT QONOQと協力して、医療向け遠隔支援サービスの実用化を目指すプロジェクト「Project the Hands」において開発協力を行っています。

このプロジェクトは、医師不足の解消や術者教育の課題解決をMR技術を用いて実現することを目指しています。

物理的な制約を超え、熟練技師の手の動きをMRを通じて示すことができるようになり、手や道具は3Dバーチャル情報として表示され、物理的な場所の制約がなくなります​​。

Forgersは医療関連のMR技術開発においても独自の専門性を持ち、様々な業界におけるXR技術の活用に取り組んでいる企業として注目されています。

特に「Project the Hands」のような医療分野への貢献は、医療技術の向上と医師不足解消において大きな可能性を秘めていると言えます。

Forgers「Project the Hands」の詳細はこちら

Forgers　Webサイト

2.イマクリエイト株式会社

会社概要

イマクリエイト株式会社は、AR・MR・VR技術を駆使したイノベーティブなコンサルティングおよび開発サービスを提供する企業です。

彼らは特に医療分野において顕著な実績を持ち、VRを活用した医療関連のトレーニングプログラムの開発に力を入れています。

開発実績

InnoJin株式会社、住友商事株式会社、イマクリエイト株式会社は、VR技術を活用した小児の弱視患者向け治療用アプリの共同開発を進め、臨床研究用プロダクトを完成させました。

2025年度中の薬機法に基づく承認申請を目指し、治療用アプリの普及と利用促進に貢献する予定です。

この治療用アプリは、デジタル技術を駆使して特定の疾患を治療するためのソフトウェアです。

弱視患者向けに開発されたこのアプリは、VR上で左右の眼に異なる映像を表示し、従来のアイパッチ治療と同等の効果を目指します。

子どもが夢中になれるゲームや動画視聴を通じて治療が行われ、患者家族への負担が少なく、効果的な治療が可能です。

イマクリエイト　小児の弱視患者向け治療用アプリの詳細はこちら

イマクリエイト　Webサイト

3.株式会社ジョリーグッド

会社概要

株式会社ジョリーグッドは、医療分野に特化したVR・AR・MR技術の開発に特化しています。彼らの目指すのは、最新技術を駆使して、医療現場の課題を解決し、より良い医療サービスの提供を実現することです。

医療従事者向けのトレーニングツールや、患者への説明支援ツールの開発を通じて、医療現場の効率化と質の向上を目指しています。

開発実績

順天堂大学とジョリーグッド株式会社は、タイ王立マヒドン大学と協力し、医療教育VRの導入実証事業を開始しました。これは日本の医療VRが海外大学に正式導入される国内初の事例です。

このプロジェクトは順天堂大学とマヒドン大学との共同教育プロジェクトの一環で、ジョリーグッドから提供されるVR教材制作設備と体験機材を用い、感染症診療教育のVR教材をマヒドン大学内で自己制作できる環境を構築します。

タイでは感染症が死亡原因の約15％を占め、医師の不足や感染症に関する十分な研修・教育の不足が課題となっています。

この実証事業を通じて、マヒドン大学で医療VRプログラムを完成させ、タイ国境沿いの医学生や医師を対象にVR教育を行い、地域医療の質の向上を目指します。

ジョリーグッド　医療教育VRの導入実証事業の詳細はこちら

ジョリーグッド　Webサイト

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【大手企業からスタートアップまで紹介】VR/メタバース開発会社/企業14選・重要な選定ポイントも解説！

今後の医療業界でのAR/MR/VR活用の展望

ここからは、医療業界におけるAR/MR/VRの活用について、現在から将来にかけての展望を2つのトピックに分けて考察します。

1.MR技術でより安全で効率的な手術支援やトレーニングが可能になる

VRを用いた医師のトレーニングは、実際の手術に近い環境をシミュレートし、未経験の症例に対しても事前に練習が可能になります。

将来的には、MR技術の進化により、手術中の医師への情報提供がさらに洗練され、より安全で効率的な手術が可能になることが期待されます。

これらの技術の進展は、医師の技術向上のみならず、患者の安全と健康に直結する重要な進歩と言えるでしょう。

2.個別化されたリハビリテーションで効果的かつ楽しく治療できる

VRを活用したリハビリテーションは、患者に楽しんで取り組める環境を提供しながら、身体機能の回復を促進します。

例えば、VRゲームを利用した運動療法は、特に脳卒中患者の回復に有効であるとされています。

一方、ARを用いた視覚支援技術は、視覚障害を持つ患者の日常生活をサポートし、より自立した生活を可能にします。

将来的には、これらの技術がさらに進化し、個々の患者に合わせたカスタマイズされたリハビリテーションやケアが提供されるようになると考えられます。

これにより、患者一人ひとりのニーズに応じた、より効果的な治療が実現可能になります。

今後、これらの技術が医療現場での応用をさらに広げ、患者ケアの質の向上や医療サービスの効率化に大きく寄与することが期待されます。

まとめ

医療現場でのAR/MR/VRの活用は、手術のシミュレーション、患者教育、リハビリテーションの向上に大きく貢献しています。

これらの事例から、AR/MR/VRは医療分野において革新的な変化をもたらしており、今後の発展が期待されます。

この記事が、医療現場でのAR/MR/VR導入する際の参考になれば幸いです。

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