【2024年最新】製造業・工場のVR活用事例と導入プロセス・費用

3D技術を応用して生み出すVRは、製造業において広く活用されつつあります。

本記事では、製造業界におけるVRの具体的な活用事例と導入効果について解説していきます。

VR技術の概要と製造業における活用例

XR=VR、AR、MRという3つの概念は、どれも3D/デジタル技術をベースにしていますが、それぞれのアプローチや体験の違いがあります。まずはXRについて簡単に整理して説明します。

VR(Virtual Reality / 仮想現実)

VRは「完全にデジタルの世界に没入する体験」を提供する技術です。専用のヘッドセット(例えばMeta QuestやApple Vision Proのようなデバイス)を装着すると、周囲の現実の環境が完全にデジタル空間に置き換わります。

現実世界が見えず、完全に仮想空間内にいる感覚になる点が特徴で、ユーザーは3Dで作られた仮想の世界を体験し、自由に動いたり、周囲のオブジェクトを操作して体験します。

製造業では、研修・訓練や、工場の設シミュレーションなどに使われます。

AR(Augmented Reality / 拡張現実)

ARは「現実世界にデジタル情報を重ねて表示する技術」で、ユーザーが見ている現実の景色に、デジタルのオブジェクトや情報が表示されます。スマートフォンやARグラスなどを使って体験します。

あくまで現実世界に対してデジタルを重ね合わせる、という点が特徴で、製造現場では、「作業中に、機械の情報や手順が目の前に表示し、業務を効率化する」という形で活用されます。

MR(Mixed Reality / 複合現実)

MRは「現実世界とデジタル世界が相互作用する技術」です。

ARと似ていますが、MRではデジタルオブジェクトが現実世界と物理的に関係しているように見え、実際に現実の物体とインタラクションできる点がMRの特徴。

例えば、デジタルのオブジェクトを現実世界の机に置いたり、壁に固定したりといった操作が可能です。

製造業では、エンジニアが現実の機械に対してデジタルの部品を重ねて、組み立て手順をシミュレーションし、業務を効率化する、という形で利用されます。

製造業におけるARやMRの活用事例が知りたい方はこちら:【製造業・工場のAR/MR活用事例】メリットや導入のポイントを解説

製造業におけるVRの活用事例①研修・安全教育

VRを使用して、工場の作業員や技術者が現場に出る前に、安全対策や操作手順をリアルな環境でトレーニングすることができます。特に危険な作業や高価な機器を扱う場合、実物を使った訓練をVRで置き換えることで、コスト削減やリスク回避が図れます。

1.危険作業の訓練・安全教育に

例えば、石油化学プラントや発電所などで、作業員が危険な化学物質や高温の設備を扱う場合、安全対策を徹底したトレーニングが不可欠です。実際の作業環境でトレーニングを行うのはリスクが高く、コストもかかりますが、VRを使えば、現実のような危険環境をシミュレーションし、安全にトレーニングが可能です。

危険な状況での対応や、緊急事態における適切な行動を訓練できるため、作業員の安全意識向上や迅速な対応力を養うことができます。

ANAが整備士の安全体感教育に、VR研修を導入

ANAホールディングスは、2020年にVR技術を活用した航空機整備士向けの危険予知訓練を導入しました。

航空機の整備中に起こりうる様々な危険をVRで体感することで、動画や画像等の座学の研修と比較し、一層安全への意識が高まることを目的とています。

関連記事:VR/ARで実現する革新的な安全教育|製造・建設・物流業の事例・費用

2.高価・大規模な設備のトレーニングがVRデバイス1台で完結する

製造ラインで使用される高額な機械設備を操作するトレーニングには、同様の設備の導入が必要だったり、あるいは実機を用いた研修では、初心者の作業員がいきなり実物を扱うとミスによる故障や損傷のリスクがあります。

一方で、VRを使用したトレーニングでは、現実に即した3Dモデルを使用し、誤操作しても損害が発生しない仮想環境で訓練を積むことができます。

設備の操作方法やトラブルシューティングを何度でもシミュレーションできるため、作業員はスキルを効率的に向上させることができる点に加え、また、VRデバイスさえあれば、設備を持たない全国各地の工場でトレーニングを行うことが可能です。

川崎重工業がヘリコプターのVRトレーニングを展開

大手製造メーカーの川崎重工業社は、VRによるヘリコプターの訓練ツールを展開しています。

実際の操縦装置とVRデバイスを組み合わせ、夜間や悪天候中の操作をVR空間で操縦するコンテンツを体験できます。

関連記事:業界別・VR研修/訓練の最新事例|導入方法や費用・メリットを解説

3.トラブル対応の技術継承やダウンタイムの削減に

自動車製造工場や精密機器工場では、生産ラインで機器が停止したりトラブルが発生することがあります。

一方で、VRで仮想の生産ラインを再現し、故障箇所の特定や修理手順の研修コンテンツを削減することで、熟練の技術士しか対応できないトラブル対応をデジタル化・標準化したり、実際のラインを止めることなく何度でも訓練して技術の向上を行うことができます。

4.VRによる製品の組み立てで作業効率を改善

産業機械など、大型の製品は組み立て手順が複雑です。

VRを使ったシミュレーションでは、部品の組み立て手順を視覚的に理解しながら、実際に手を動かす感覚で訓練が行えます。さらに、メンテナンスや修理の手順もシミュレーションでき、作業効率を向上させます。また、トレーニングの反復が容易なため、スキルの習得速度が向上します。

製造業におけるVRの活用事例②設計・プロトタイピング

新しい製品や製造プロセスを設計する際に、VRを用いることで、実際の試作品を作る前に多くの修正が行うことができます。

製品デザインの可視化とレビューに

新しい製品・設備を開発する際、製品の形状や寸法などを確認するために実際に試作機を開発することがありますが、3DやVRで行うことで大幅なコストカット・時間の短縮を行うことができます。

3Dのデザインデータから3Dモデルを仮想空間に表示し、リアルタイムでユーザーが製品を立体的に、あらゆる角度から確認でき、デザイン上の問題などを見つけるといったアプローチが可能です。

3Dデータさえあれば、物理的な場所や製品に縛られることなく、チームのメンバーからレビューをもらうことができるため、試作品を繰り返し作成するコストを削減し、製品開発のスピードを大幅に向上させます。

トヨタ自動車:VRで車両の人間工学を評価


トヨタ自動車は、Unreal EngineとVRを活用して車両の人間工学的評価を効率化しています。

VR環境で車内の操作性や視認性をシミュレーションし、リアウィンドウ越しの視界を確認したり、操作ボタンの到達性を評価しています。

このプロセスにより、物理的な試作品の作成を減らし、コスト削減と開発スピードの向上を実現したそうです。

参考記事:トヨタ自動車がVRとUnreal Engineを活用して車両の人間工学を評価

製造業におけるVRの活用事例③デジタルツイン・工場シミュレーション

VRと近いワードに「デジタルツイン」があります。

現実世界の状況を仮想環境でシミュレーションし、実際の工場の最適化を目指すという取り組みですが、それらをビジュアライズする際にVR/3DCGが利用されます。

VRを使うことでデジタルツインを視覚的に確認でき、製造プロセスの改善やシミュレーションを行いやすくなります。

1.製造業におけるデジタルツインの概念と生産ラインのシミュレーション事例

「デジタルツイン」とは、現実世界の工場や製造プロセスの仮想モデルをデジタルで作成し、リアルタイムで現実と連動させる技術です。

表面的にコピーするのではなく、各設備の状態・パフォーマンスと連動させてデジタルでシミュレーションする取り組みを指し、製造業では現実の工場や製品の状態を常にモニタリングし、効率を最適化するための分析や予測を行います。

AGC・ダイキン・ボーイングなどが工場のデジタル化に取り組む

国内では、AGCがガラス製造において化学プラント工場のデジタルツイン化に取り組んでいたり、2018年に空調機器の製造の生産管理にデジタルツインを導入し、生産プロセスの効率化と製品品質の向上を実現しています。

国外では、ボーイング社がデジタルツインを使用して生産ライン全体をシミュレーションし、生産効率の向上やエネルギー消費の削減を図っています。

製造業におけるデジタルツインや工場の最適化事例が気になる方はこちらの記事をご覧ください:デジタルツインによる工場のスマート化・活用事例|製造業の未来と課題とは

2.VRによる工場レイアウトの最適化

従来は、工場レイアウトの変更や最適化は、実際の場所や各製品・設備の細かなサイズ計測が必要で、手間・労力を要する作業でした。

一方で、VRを使えば、3D空間で工場や製造ラインを仮想的に再現し、その中で設備や機械の配置、作業員の動線を自由にシミュレーションすることができるため、手間や労力をかけずに配置を最適化することができます。

製造業でのVR導入手順とは?効率的な導入プロセス

1. 目的の明確化・目標設定

VRを導入する狙いや目標を明確化しましょう。

  • 既存の工場・業務の課題のうち、解消したい課題は何か(例:新入社員の業務習熟、外国人労働者への対応…)
  • VRにより課題は解決可能か
  • どの程度の費用対効果が期待できるか(例:既存の育成で要している時間、コストとの比較)

といった点を詰めていきます。

例えば、作業員のトレーニング、新製品の設計シミュレーショなどの中で、工場内のどういった業務がVRで効率化できるかをリストアップしましょう。

2.要件定義・設計及びVRデバイスや開発環境の選定

設定した目標を達成するために

  • 要求仕様の策定(どんなことをVRで成し得たいか)
  • 機能要件の定義(どんな機能があると、要求を満たせるか)
  • 設計(実装手法の検討)

などを行っていきます。

製造業で活用できるVRデバイス

その中で、どのVRデバイスや開発技術を使用するか決めます。

ヘッドセットは、Meta Quest 2のようなスタンドアロン型や、HTC VIVE XRようなPCベースの高性能モデルが選択肢です。

使用する開発技術は、3Dモデルやリアルタイムシミュレーションが必要であればUnityUnreal Engineなどが適しています。

※VRデバイス・VRヘッドセットまとめ記事:【2024年最新】VRデバイスの特徴や選び方を徹底解説|注目のVRデバイス/VRヘッドセット10選

3. コンテンツの開発:3D製作・アプリケーション/システム開発

設計した内容をもとに、製品や設備の3Dデータの製作/3Dスキャンによる取得や、アプリケーション・システム開発を行います。

製品の設計データを元にVR用の3Dモデルを作成し組み立て手順の確認や、製造プロセスにおける動線の最適化などをVRアプリに機能実装していきます。

4.テストと運用・導入後のフォローアップ

最後に、開発したVRコンテンツを現場に導入し、必要な改善点が出れば迅速に対応していきます。

実際の運用に入ると、トレーニングや製品開発に役立つようなデータが蓄積されるため、それを元にさらなる改善が可能です。また、導入後のフォローアップとして、定期的にアップデートや改善を行い、VR技術のメリットを最大限に活用しましょう。

今後の可能性と展望

VR技術は、製造業の未来を大きく変える可能性を秘めています。今後、VR技術は、より高度化し、より現実的な仮想空間を再現できるようになると予想されます。また、VR技術と他の技術との融合も進み、製造現場のさらなる効率化と革新が期待されます。例えば、VR技術とAI(人工知能)技術を組み合わせることで、製造現場の自動化や無人化が実現する可能性があります。さらに、VR技術とIoT(モノのインターネット)技術を組み合わせることで、製造現場のリアルタイムな状況把握や遠隔操作が可能になる可能性があります。

製造業におけるVR開発なら

当メディアの運営元・株式会社Forgersは、製造・通信・小売業など幅広い業界の企業に対して、VR/ARやデジタルツインの実装・コンサルティング支援を行ってまいりました。

様々なVR/ARデバイスを用いて、NTTドコモ、アイシン、ニトリ、NTT東日本などのXR開発や、大手化学メーカーの「工場のデジタルツイン化」も支援しております。

XRを活用した研修・トレーニングアプリの企画・設計や開発も行いますので、内容や費用に少しでもご興味がある方は、こちらからご相談ください。

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